あのラストシーンはなぜ生まれたのか。映画『聲の形』山田尚子監督&音楽を担当した牛尾憲輔のトークイベントが開催

映画『聲の形』の大ヒットを受け、10月13日の新宿ピカデリーにてに山田尚子監督、音楽を担当した牛尾憲輔氏によるトークイベントが行われた。このイベントでは、作品の中でとても重要な要素であった音楽について、二人三脚で取り組んだ制作秘話などを語った。

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―牛尾さんが音楽を担当することになった経緯について

山田:元々、agraph.(牛尾が別名義で活動をするソロユニット)の音楽をずっと聴いていて気になっていました。 今回『聲の形』の監督を任せて頂くことが決まった時にピンときたというか。 「聲の形=agraph!」ってすぐに繋がったんです。自分から音楽をぜひこの方に、と言うのはほぼ初めてだと思うのですがリクエストをしました。

牛尾:ありがとうございます。僕も山田尚子監督作品のファンだったので、山田作品に触れるなんて怖い…と思いながら、 初めて挨拶した時に緊張して逃げるように去ってしまいました。

山田:でも一番最初の打ち合わせの時に、この作品をどう作るかという話をしたんです。無限や極限についての話とか周りのスタッフの方はみんなポカンとしていましたが、牛尾さんは話が通じたんです。

牛尾:シンパシーを感じましたね。(笑)これだ!と。この曲(トーク中のBGM”lit”)は、打ち合わせの日に帰ってすぐできました。もらった画コンテを楽譜台に立ててピアノを弾いたりしながら作っていきました。

山田:絵コンテを描いている間にもどんどん音楽が出来上がってくるんですよ!ほぼ同時進行みたいな作業は面白かったですね。

牛尾:山田監督には週1回位の頻度でレコーディングスタジオに入ってもらって、仮の映像にこの曲をここにあてる、っていう作業を普通は音響監督や他の方がやってくれることを山田監督を含めてやっていました。
山田:初めてのことばかりでしたので大丈夫かな、っていうのもあったけど、おかしなことがあったら鶴岡音響監督がきっと言ってくれる!ということで (笑)

―音楽のこだわり

牛尾:(観客へ向け)ピアノの中にいるような気がしませんでした??アップライトピアノで色々試して、ピアノの中みたいな音像ができたんです。(外の音を遮って)将也は自分の内面にどんどん入っていくようなところと、硝子はどんな風に身体で音を感じているんだろうというところ、そのあたりはよく話しましたよね。言葉にするとイメージが固定されてそれ以外がなくなってしまうから、言葉になりえないようなコンセプトから音作りをスタートできたのがよかったです。

山田:牛尾さんの曲づくりのアプローチが自分のフィルム作りと似ている気がしていたんですが、実際会って共に作品作りをさせていただくことによってその思いが確かであったことがわかってとてもうれしかったです。

―ラストシーンで悩んだ

山田:文化祭の後の将也のラストシーンが難しくてどうやって終わったらいいのか、と悩みました。わたしは会社のスタジオのそばを散歩していて、小さい河原があるんですけどそこで将也がすっと入ってきて最後はこれに向かって作っていこう、と思えた瞬間がありました。牛尾さんも同じところで悩まれていたのを知って、一度スタジオにいらっしゃった時に、「小さな河原ですがもしよかったら…」とその河原を紹介しました。

牛尾:その河原がすごく良くて。小雨が降っていて、いろんな色の傘があって。それぞれお互いには認識していないけど、僕のいる位置の画角からはいろいろ(人や場所が)見えたんですね。そしたらもう 1 回、将也にフォーカスしていいんだなーってことに気がつけて、泣いていました。でもその場所って、京アニの近くだからさっき挨拶したスタッフたちが通るんですよ!「こいつ、大丈夫か?」みたいな顔をされながら通り過ぎていくという
(笑)。

―最後にひと言

牛尾:純度を保って最後まで作ることができました。10年、20年経ってからまた見直せる、何回もみたくなる作品になったんじゃないかと思います。今日観られた方もまた何度でも劇場に足を運んでもらえるとうれしいです。本当にありがとうございました。

山田:音、音楽を大事したいと思っていた作品です。牛尾さんにお願いすることができて、想像を絶する、想像以上の音楽が出来上がりより魅力的な作品になったと思います。こんなにもクリエイティブな部分を大切に壊さずに、純度を高く保ったまま、みなさんの元へお届けできたことが本当にうれしいです。今日はありがとうございました。

公式サイト

(C)大今良時・講談社/映画聲の形製作委員会