TVアニメ『アトム ザ・ビギニング』OP映像演出・絵コンテ・作画監督を担当したBahi JDのインタビューが公開

本日23:00~NHK総合テレビにて最終回が放送されるTVアニメ『アトム ザ・ビギニング』のオープニング映像の演出・絵コンテ・作画監督を担当したBahi JD氏のインタビューが公開された。
独特な色彩と生き生きとしたキャラクターの動きが魅力の本作のオープニング映像の制作裏話を語っているので、気になる人は早速確認してほしい。

目次

OPテーマ曲「解読不能」を初めて聴いた時の印象を教えてください。

曲に対する第一印象はとても力強くて情熱的だなと思いました。
純粋な感情を与えるそらるさんとまふまふさんの声の中にすごいエネルギーを感じました。また、このオープニング曲の構成はエネルギッシュなオープニングアニメーションにピッタリだとも思いました。

全てのパートがとてもバランスが取れていて、どのパートがOP映像で重要なアクションシーンになるだろう、どのパートが感情的なシーンになるだろうというのが曲を聴いていてよくわかりました。
曲のそれぞれのセクションが決まった雰囲気を持っていましたね。だから最初に曲を聞いたとき、すぐに頭の中に映像と情感が湧き上がりました。これは音楽の持つ力だと思います。

美術監督のくまおり純さんと一緒に映像と音楽のバランスを考えるのがとても楽しくて面白いチャレンジと制作プロセスになりました。
After the Rainのお2人、素晴らしい曲をありがとう!

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OP映像の中で一番気に入っている(または思い入れのある)シーンはどこでしょうか?

それは私が視聴者に聞きたいですね(笑)。
全スタッフがとても情熱的に働いていたので、それぞれのカットで一生懸命に作業してくれたスタッフの皆に本当に感謝しています。

OP映像はくまおり純さんによるカラースクリプトも魅力的ですがくまおりさんの起用の経緯を教えてください。

実はずっと前からくまおり純さんのファンだったんです。
このオープニング映像のコンセプトやアイディアを考えている時に、もしこのプロジェクトで一緒に仕事ができたら本当に素敵だなって思ったんです。
くまおりさんの作品はとても美しく、彼女は色や背景やキャラクターについて優れた才能を持っていると思います。そして彼女の絵のスタイルはアニメーションのフォーマットによく馴染むのです。また、くまおりさんとカサハラテツロー先生の絵のスタイルに絶妙なバランスと調和があるのではとも考えました。

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最初はツイッターでくまおりさんに連絡を取って、このプロジェクトに興味があるかどうかを尋ねました。彼女がこのプロジェクトに興味を持ってくれてチームに参加してくれて本当に嬉しかったですし、一緒に働ける貴重な体験となりました。
彼女のカラースクリプトやイメージボードはとても役立って本番の背景もたくさん描いてもらえました。彼女は本当にすごいアーティストで、制作全体で助けてもらったと思います。

―――――ここからはTwitterにてファンの皆様より募集させていただいた質問になります。OPのモリヤの前に出てくる赤い蝶とEDでA106の手のひらから飛び立つ蝶はつながっていますか?何か「意味」はありますか?(私はEDの歌詞から「希望」の象徴だと考えたのですが)

そう、まさに「希望」です。オープニングに蝶を出したのはアニメーターの伍柏諭さんのアイディアです。良い感じに見えるのではないかということで採用しましたが、私はそこにさらに意味を持たせてみました。結果、エンディングにも蝶を加えることになりました。

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OPに出てきた博物館(?)の小さなロボットの像(モトコさんと蘭ちゃんが覗き込んだ)は外伝鉄腕アトムに出てきた地上最小のロボットですか?

あのロボットは古代ギリシャ陸上競技彫刻の“円盤投”にアイディアを得ました。絵コンテではかなりラフにデザインして、最終バージョンではジョナサンというフランス人のアニメーターにフィニッシュしてもらいました!

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作っていく中で「こんなシーンも入れたかったけど入らなかった!」というシーンがあったら教えてください

A106と博志がゲームセンターで格闘ゲームで一緒に遊んでいて、A106が超強い!というシーンもありました。ゲーム中にゲームキャラがパンチを繰り出したところで、A106がパンチしているシーンに切り替わるというものです。
また、A106が午太郎や博志のためにハンバーガーを作っているというシーンもありました。そのほかにもF14が博志の頭に乗りながら博志が自分の歯を磨いているというシーンもありましたね。

OPのみんなが走っているシーンはそれぞれ個性が出ていますが、このキャラはこう走る、などキャラの裏設定や気をつけた点はありますか?

全部で6カットあるc12についてのことだと思いますが、実は何の設定もなかったんです。作画の打ち合わせ中に、いくつかの背景参考写真を用意して、それぞれのキャラクター性、背景情報、それぞれのシチュエーションを説明しました。
走っているシーンはアニメーターの森匡三さんに設定無しで背景原図を描いてもらいました。背景の参考としてはくまおり純さんの過去作品を参考にさせてもらいました。新規の設定を用意したカットもありましたが、c12はアニメーターが設定を作ったカットですね。

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一番ここはこだわりがあると言う部分を教えてください

オープニングの映像がくまおり純さんの描いたカラースクリプト通りに見えることを重要視しました。色彩設計の菅原美佳さんもくまおり純さんにかなり寄せて作業をしてくれています。二人とも色について素晴らしい仕事をしてくれましたし、背景スタジオのととにゃんさんもまた素晴らしい仕事をしてくれました。キャラクターの原画については、カサハラテツローさんとくまおり純さんの中間を狙って描いていました。

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ロボットを描くときのコツってありますか?

実はこのプロジェクトの前にたくさんのロボットを描いたことがなかったので特別なテクニックは自分は持っていません。すみません。
ただ、「アトム ザ・ビギニング」の仕事をするにあたり、準備のため格好良いメカアニメーターの作品をチェックしたり、ロボットが人間と比較してどのように動くのかなどの勉強をしました。

例えば、ロボットは人間と比べて重いから動きにも影響があるだろうとか。
それがどのように機能して動くのかを注意深く理解しようとすることを動きを作るときに重要視しています。

一番好きなキャラは誰ですか?

全員好きですよ。F14もすごく好きです!

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オーストリアのBahiさんと日本のスタッフさんとはSkypeでの会話で連絡を取っていたそうですが、日本の制作現場に本人が居られないことで苦労したことなどありますでしょうか?

オープニングとエンディングがプロダクションに入った段階で来日しました。
私が演出として重要だと思うのは、同じ場所でチームの近くにいて直接チームとコミュニケーションを取ることです。同じ場所で直接チームと一緒に働けるのは楽しくて、効果的だという理由もあります。
ただ、チームの内何人かのスタッフは別の場所にいて、その内の何人かは日本以外の外国にいました。でも彼らともスカイプとインターネットを通してコミュニケーションをとっていましたので、特に困ったことはなく、上手くいったのではないかと思います。

原作の漫画を描いてるカサハラテツローです。どれもバランスが取り辛くて描きにくいキャラでスミマセン…。中でも特に描きにくかったキャラは、誰(もしくはどれ)でしたか?

どのキャラクターのデザインも挑戦的だけど、アニメーションにとても合ったデザインだと思います。デザインのバランスが巧く取れているため、アニメーターが描いたり、動かしたりしやすいと思います。
ディテールや形状がしっかりしていてわかりやすいですし、シルエットや体型も良いです。カサハラさんがデザインしたどのキャラクターもとてもユニークで、洗練されていて個性的な特徴を持っています。そういった部分が私も含めてアニメーターにとってわかりやすいデザインだと感じています。

人間のキャラクターだけでなく、ロボットのA106とマルスのデザインもアニメーションに適したデザインになっていると感じます。私が今回は作画監督だったのでそれぞれのアニメーターの原画をチェックしなければならなかったのですが、みんな普通に上手く描けていました。カサハラさん、素晴らしいバランスのキャラクターデザインを本当にありがとうございます。

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最後に、アトム ザ・ビギニングのファンの皆様へひと言をお願いいたします。

オープニングと本編を観てくれて本当にありがとうございます。
オープニングとエンディングを両方とも制作できて本当に楽しかったし、皆様にも楽しんでもらえることを願っています。
支えてくれてありがとう!アニメーションパワー!

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Bahi JD

1991年生まれ。オーストリア生まれ。イラストレーター、アニメーターとして活躍中。
TVアニメ「アトム ザ・ビギニング」ではOP映像の演出・絵コンテ・作画監督を担当する。

公式サイト

(C)手塚プロダクション・ゆうきまさみ・カサハラテツロー・HERO’S/アトム ザ・ビギニング製作委員会