『響け!ユーフォニアム2』石原立也監督、音楽の松田彬人、ユーフォニアム奏者・外囿祥一郎の座談会が公開。3人が考える視覚表現と音響表現のマッチング

10月から放送中のTVアニメ『響け!ユーフォニアム2』公式サイトにて、監督の石原立也氏、音楽の松田彬人氏、そしてご自身もプロのユーフォニアム奏者として活躍し、作品を1期からご覧になられてきた外囿祥一郎氏による座談会が公開された。

音楽が一方の主役という『響け!ユーフォニアム』ならでは、席上では、吹奏楽というジャンルについて、ユーフォニアムについて、さらにはアニメとしての表現と楽曲の関係についてなど、幅広い話題が次々に飛び出している。これを読めば、アニメ2期をいっそう深く楽しめるはずだ。

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スペシャル座談会:http://anime-eupho.com/special/trialogue/

石原立也(いしはら・たつや)
アニメ監督・演出家。京都アニメーション所属。
演出・監督として多数のアニメ作品にたずさわる。アニメ「響け!ユーフォニアム」では監督を務める。

松田彬人(まつだ・あきと)
1982年生まれ。作編曲家として数多くのアニメ劇伴を担当。
明るく軽快なポップスからへヴィなロックまで、ジャンルにとらわれない幅広いタイプの楽曲に定評がある。信条は「作品の為だけの最高の音楽を追求」。

外囿祥一郎(ほかぞの・しょういちろう)
日本が世界に誇るユーフォニアム奏者。
92年第9回日本管打楽器コンクール第1位および大賞受賞、97年フィリップ・ジョーンズ・ブラス・コンクールのユーフォニアム部門優勝。N響、東響、東京佼成ウインド、大阪フィル、九響、札響、名フィル等と共演。航空自衛隊航空中央音楽隊在籍中は数多くの公演でソリストを務める。ソロ活動のほか、テューバ奏者の次田心平と結成したユニット「ワーヘリ」、ブラス・ヘキサゴン、ザ・テューバ・バンド等でも演奏活動を展開。

目次

――吹奏楽をテーマとする作品も、最近はいろいろとありますが、なかでも「響け!ユーフォニアム」は音楽そのものをメインに据えた本格的な作品だと思います。そうした、いわばパイオニア的な作品を手がけられ、あるいはご覧になられての思いやお考えをお聞かせいただくところから、お話を始めていただけますか?

石原
僕の場合はアニメ作品を作るという側面からのアプローチでもあり、これまで吹奏楽とはほぼ無縁でしたから、あくまで「高校の吹奏楽部」に限っての話なんですが、吹奏楽は描く対象としてとても魅力的だと思います。部活というのは、高校野球もそうですし、オリンピック選手なんかもそうかもしれませんが、若い頃にひとつのことをめざして成し遂げようとするわけで、大変な努力をしなければならない。
それはもちろん吹奏楽だけじゃないと思いますが、この仕事に参加して初めて、それまで抱いていたイメージとだいぶ違うことに気づいたんですよ。僕自身の高校のころを思い出しても、楽器を吹いている女の子はとっても可憐に見えましたし、どちらかというと、お嬢様がお上品に楽器をやっているというような印象があったんですが、今回、いろいろ話を聞いてみると、実質体育会系だったり、練習時間もかなりハードだったり。「あ、そういうもんなんだな」と勉強させていただいて、今では涙あり葛藤あり、自分のなかでは、かつての“スポ根アニメ”に近いイメージもあるかもしれません。

外囿
コンクールの審査や部員の皆さんの指導をさせていただいている立場から言いますと、それは……もう“スポ根”そのものですよ(笑)。みんな青春かけてやっている! っていう感じだからこそ、今こうしてクローズアップされ、題材になるんじゃないかなと思いますね。部活というごく身近なところに、本当に劇的なドラマが埋まっている。
そのあたり、アニメの1期や映画を拝見して「こういうこと、本当によくある! まさに、吹奏楽あるあるだなぁ」と感心したんですが、監督はどこでああいうネタを仕入れるんですか?

石原
うーん、どうやってるだろう(笑)。僕としては、取材での情報のほかに、なるべく身近な人に聞いたりしていますね。じつは、京都アニメーションにも吹奏楽経験者は結構いるんですよ。そういう人間から聞いた話をなるべく活かすことで、雰囲気とか空気感を出せれば、と思っています。

外囿
特に感動するのが細部の描写で、たとえば部室なんかの何げない背景が、本当に素晴らしい。誰もいない廊下のカットで、吹奏楽の空気感みたいなものが感じられるのにはびっくりしました。

石原
たとえば、ポンとメトロノームが置いてあったり、楽器だけが並んで置いてあるカットを入れることで、たとえ一瞬でも吹奏楽そのものを感じてもらうことができる。吹奏楽をやった人であれば、みんなそう思うんじゃないかなって、そういう意識はしましたね。
幸い学校さんも、いくつか取材をさせていただいたので、練習風景だとか部室だとか、楽器置き場だとか……音楽室は当然ですが、楽器置き場っていうのが、吹奏楽部っぽいんですよね。生徒さんたちが書いた「チューバ大好き?」なんていう落書きがあって(笑)。そういうディテールは、取材する側からしたらとても美味しいネタなので、なるべく画面に出すようにしているんです。

外囿
なるほど! そういうところに目がいくっていうのがすごい。取材で楽器置き場へ行かれたとして、全体は見ても、ふつうは落書きまで目がいかないんじゃないですか?

石原
それは逆に、僕が吹奏楽部についてほとんど知らないからで……吹奏楽経験者の方からしたら当たり前に見えるものが、僕としてはとても珍しかったんですよ。ひょっとしたら、そういうところが良かったのかもしれませんね。

松田
僕にとっても、今回の作品は初めて本格的に吹奏楽の作編曲に挑戦したという点で、すごく大きい意味があります。もともと、学生時代に吹奏楽部に入っていて、トロンボーンを吹いたり、簡単な編曲もやっていたんですが、そのときに培った吹奏楽のイメージと、これまでアニメの仕事中心でやってきたノウハウが、今回いい具合に出会ったような気がしているんです。おかげで、アニメの曲であり吹奏楽の楽曲でもあるという、ちょうど中間をいけたんじゃないかなと思います。

外囿
それは、作中に登場する楽曲を聴いていても、本当に感じます。まさしく吹奏楽のアレンジでありつつ、曲によってはポップス的にすごく聴きやすいですし、実に的を射ておられますよね。僕としてはそのほかにも、何げない学校のシーンで遠くのロングトーンの練習の音がフワーッと入ってきたり。そのフレーズとか、音色の感じが本当にゾクゾクするんですよ。

石原
ああいうSE、効果音的なものは、「こういうときはどんな効果音がつくかなぁ?」って、スタッフの皆さんに相談していましたね。特に、鶴岡(陽太)音響監督が、音の距離感みたいなものまで、こだわって音をつけてくださっているんで、そういうところも良かったんじゃないかと思います。僕にしても、高校のときの放課後を思い出すと、どこか遠くのほうで、吹奏楽部の練習している音がいつも聴こえていたなぁっていう記憶はありますし。

――それとともに、視覚表現としてのアニメーションと音響表現のマッチングも、この作品では大きなテーマだったと思うんですが、そのへんはいかがでしょうか?

石原
これは、いろいろなところで言っているんで、もうあまり言いたくはないんですけれど(笑)、物として楽器をアニメで描くっていうのは、じつは相当ハードルが高いんです。金属の管が複雑につながったのを、手でひとつひとつ描くのは結構大変で……でも、音楽をテーマにしている作品である以上、その部分は適当にはできませんし。
こんなことを言ってなんですが、もう少し低年齢層向けの作品だったり、音楽がメインでない作品であれば、楽器もデフォルメしたり、音と指の動きが必ずしも合っていなくて大丈夫だったりもすると思います。しかし、この作品ではそうはいかないので、実際にその瞬間に鳴っている音とピストンの動きは完璧に合わせているんです。

外囿
しかも、それを一方向から描くだけじゃなくて、当然いろんな方向で描かなきゃいけないわけですよね? 特にホルンだとか、ユーフォニアムなんかは僕自身いつも見ていてややこしい形だなぁって(笑)……それを描かれるだけでも大変なのに、手の動きだとか、アンブシュア(楽器を吹く際の唇の形)までも意識しておられるのには、ひたすら驚くしかありません。

松田
音響表現と視覚表現という点では、劇中の楽曲と劇伴を区別するため、劇伴にはあえて管楽器を使わず、ピアノや弦だけのシンプルな編成にしています。劇伴については、最初に鶴岡監督から指示があって作曲をしたんですが、シナリオを読んだり、絵に合わせて作ってくれというのではなく、たとえば「積層する思い」とか、そういう抽象的な単語をリストのかたちでいただき、あとは自由に作ってもらいたい、と。そうは言っても、本当に自由に曲を作ってしまうと絵に合わないし、普通の劇伴にもしたくないし……ちょうどいいバランスを見つけるのに、初めのうちは苦心しました。
ただ、1期の方針として、ストーリーの核になる「三日月の舞」を、全体に流れる通奏低音のようにしたいというのがあり、その変奏を随所に使うことで、ある種のよりどころができたという感じはありますね。

外囿
「三日月の舞」で言うと、例のトランペットのソロがとても素敵なフレーズですね。しかも、高校生にとってはかなり難易度が高いという(笑)。

松田
ソロの部分については、ストーリー的にオーディションの場面につなげる必要がありましたので、ある程度は難しくという前提がありました。と同時に、アニメファンの目線も意識しつつ、ある程度キャッチーにしようということで、ああいうフレーズになったんです。流れ的にも「さあ、どうぞ!」っていう感じでドカンと入ってきますので、クライマックスになるコンクールの場面でもきちんと存在感が出せたと思います。

石原
あのソロは、原作でも重要な部分にかかわってきますので、松田さんにはその点を意識してもらうよう、最初の打ち合わせでお願いしました。これは、僕だけに当てはまる話かもしれませんが、先に音があるほうが発想しやすいというか、絵をつくりやすい面があるんです。ですので、オーディションのシーンなんかは、松田さんの書いてくださったソロありきで、スムーズにいったなぁと。
むしろ、どの作品でも最初につくるオープニングでは、いろいろ考えたり、ネタ集めもしているのに、いざ音と合わせてみると、何となくかみ合わないことが多い(苦笑)。結局、大あわてで手直ししたり……個人的には音から発想するタイプなんだなぁ、とあらためて思ったりしますね。

外囿
松田さんとは、これまでに何度かご一緒されているんですか? そういう場合、作曲や編曲のクセというか、手の内がある程度わかっていると、絵がつくりやすいことってあるものでしょうか?

石原
松田さんとは、これまでに何度もご一緒させていただいていますが、それ自体はあまり関係ないかもしれません。ただ音楽プロデューサーの斎藤(滋)さんから「次は、松田さんでいきます」って聞くと、「ああ、松田さんなら大丈夫だな」っていう部分があって、こんな感じで曲がくるのかなっていう予想をしたり。まぁ、結局そのとおりっていうことはないんですが(笑)、そういった安心感はありますね。

――ユーフォニアムという楽器についてなんですが、吹奏楽と無縁の方からすると「初めて知った」っていう感想が多いらしいんです。実際、吹奏楽以外の編成ではあまり見かけない楽器ということで、そのあたりについてはどんなご感想をおもちですか?

松田
今回、あらためてユーフォニアムのメロディを書いてみると、音色だけで吹奏楽全体の雰囲気を作ってしまうすごい楽器だなというのを感じました。弦とか金管だとか、そういうわかりやすい音色――たとえば、トランペットなんかはすごく派手な印象があるんですが、ユーフォニアムっていうのは、強く吹いたら角がある音になるし、やさしく吹くと柔らかく包み込むような音も出る。その幅の広さというのを、すごく感じましたね。

石原
僕もまず、なんで主人公がユーフォニアムなんだろう? って、作品が始まる前に考えました。こう申し上げると失礼になるかもしれませんが、確かにユーフォニアムって知名度としては、トランペットなんかに比べると高くはないと思うんです。でも、いろいろと調べていくと、吹奏楽の中ではまさに“縁の下の力持ち”で、どんな楽器とも合うっていうふうに書かれている。
その意味で、主人公の久美子、そんなに派手で目立つ子ではないんですけど、わりとどんな子とも仲良くなれるタイプだなぁ……そういった点から、主人公がユーフォニアムになったんじゃないかって。ユーフォニアムという楽器のキャラクターが自分のなかではっきりしたことで、作品の輪郭がいっそう見えてきましたね。

外囿
おっしゃるように、楽器のキャラクターっていうのはすごくありますね。トランペットの人はトランペットのキャラクターだし、ホルンの人はホルンのキャラクターだし。僕も仕事がら、いろいろな楽器の方とお付き合いさせていただいているんですが、楽器のキャラクターと演奏家のキャラクターっていうのは、かぶるところが多いなって思います。
で、純粋に楽器として見た場合、ユーフォニアム抜きの吹奏楽っていうのは考えられないんですよね。倍音(ある音に対して、その整数倍の周波数をもつ音のこと)が多いので、サウンドが拡がりますし、ハーモニーを奏でるうえでも欠かせない。サクソフォンとユーフォニアムのふたつがあることによって、バンド全体のサウンドがさまざまに変化するんだと思うんです。
ただ、楽器自体の歴史が浅いせいもあって、大作曲家が曲を書いていない。そういう理由から、他のジャンルではあまり広がらなかったんですが、歴史が浅いというのは半面、楽器として完成度が高いということも言えるんじゃないかと。実際、同じような音域を担当することの多いホルンと比べても、初心者の方にはコントロールしやすいですし、マウスピースの大きさだって、たぶんトランペットより音が出しやすいと思います。

石原
キャラクターとの関係という点で言うと、もちろん原作でのもともとの性格づけはあるんですが、久美子にとって吹奏楽を始めるきっかけはお姉ちゃんで……でも、そのお姉ちゃんも辞めてしまっていて。久美子自身、その後もずーっとユーフォニアムをやってはいるんですが、わりとぼんやり続けてきたっていうキャラクターだった。それが、麗奈っていうアツい女の子と出会って、それに触発されて自分もアツくなっていくっていうお話なんですよね。

外囿
そうそう。麗奈ちゃんは、性格で言うと“THEトランペット”っていう感じですから、久美子ちゃんのユーフォニアム的なキャラクターとの関係が、見ていてすごく面白いんです。トランペットっていうのは、とにかく一番高い音を吹いていますし、すごく目立つんですが、その分、ハイリスク―ハイリターン的なところもあって、ユーフォニアムとは対照的。そのふたりが、微妙な関係から友情を深めていくあたり、絶妙ですね。

――作品では、たんに吹奏楽が楽しいというだけでなく、特に後半になるにつれて、みんなが成長していくのが見どころなわけですが、そのあたりの音楽面の表現についてはどんな点に気を遣われましたか?

松田
もちろん、劇中の演奏のレベルについては大きく変わっていくわけですが、劇伴という面について言えば、ストーリーの変化に無理に合わせるということをそれほど意識せず、空間を埋める、空気感のある楽曲をめざすという点で一貫していると思います。2期についても、基本的にその方針は変わらないつもりです。

石原
1期で言えば、1話めの久美子と、最後のほうで猛練習をしていてぶっ倒れてしまう久美子の違い。そういう違いは、顔つきや表情を微妙に変えるとか、セリフの面でもいろいろできますし、難しい表現方法ではないと思います。ただ、実際の演奏面では、下手だったバンドがだんだんに上手くなっていく部分を表現するのに、音楽プロデューサーの斎藤さんがそうとうご苦心されたんじゃないでしょうか。

外囿
見ている側からすると、特に一般の方には、演奏が上手くなっていくというのはなかなか伝わりにくいと思うんです。その分、キャラクターが発言することで、その人の考え方の変化が演奏の充実につながっていくっていう……努力したことが、だんだん成果に結び付いていって、何を大事に音楽をやればいいのかがわかってくる。そういうアニメ作品ならではの相乗効果で、見ている方にはますます上手く聴こえてくるんだと思います。
実際に、夏休み中の学校に指導に行ってみると、生徒さんたちはとにかく朝から晩まで練習しているんですよ。運動部の場合は体力的な消耗もすごいので、だいたい午前中から昼過ぎくらいまでですが、吹奏楽の部員たちは屋内でずーっとメトロノームを鳴らしながら吹き続けている。12時間くらいやっている学校も、珍しくないんじゃないでしょうか?

石原
ときどき耳にするんですが、練習について、あるところまで全然できなかったのが、いきなりポンとできるようになって。そうすると、なんで今までできなかったんだろう? っていう……そういうことってあるんでしょうか?

外囿
自分自身で気づいたり、先輩の演奏を聴いて「あっ、もしかしたらここにヒントがあるんじゃないか」っていう瞬間はありますね。練習のやり方とか、演奏上の表現とか、「あの人のソロ、今日は素晴らしかったな」と感心して、自分ももう少しこうしてみようかとか。上手くなるには、そういう気持ちになれるかどうかが重要かもしれません。たとえばコーチの先生にちょっとした点を教わることによって、劇的に変化することも少なくないので、指導する側としては責任を感じます。

石原
1期について言えば、原作の小説では1冊め。久美子たちが入部して3~4カ月の間の出来事を描いていますので、その変化も劇的なものになる。最初のほうのドタバタの「暴れん坊将軍」が、最後のコンクールではあそこまで完成するわけですが、その点では、演奏していただいた洗足学園音楽大学の皆さんが大変だったと思います。
特に、十分吹ける方たちがあえて下手に吹くというのは、想像以上に難しいようで――音楽に詳しい方が聴いて「下手だなぁ」というレベルと、一般のファンが多いアニメのなかで「これ下手だよね?」というのは大きく違う。しかも、それをわざとらしくならない程度にやらなければならないという点で、洗足の学生さんたちにはご苦心をおかけしました。

――その集大成ともいうべき京都府大会の場面ですが、あの12分間というのは実際の生徒さんにとっても、一生のうちでこんなに重い時間はないというくらい密度の濃いものなんですね?

松田
そうですね、渾身の力をふりしぼって12分間を全力疾走するという感じですから。1期のクライマックスにあたるあの場面は、そういった密度の濃い特別な時間が、見ている側にもひしひし伝って、僕なんかも思わず手に汗を握ってしまいました。ああいう空気感というのは、たとえば現役の部員の方たちに取材された結果なんですか?

石原
実はあそこは直接、生徒さんに聞いたっていうわけではなく、自分で想像した結果ああいう表現になったんです。今、全力疾走とおっしゃっていましたけれど、たとえば短距離走の人は100mを駆け抜けるわずか10数秒くらいのために、何十時間、何百時間を練習していますよね。同じように、吹奏楽の子たちもあの12分間のために、日々果てしない練習を重ねていく……実は、アニメーション制作の作業もそうなんですね。たった1秒の場面に何十枚も絵を描いて、それがテレビ画面の中に映るときは一瞬だったりするわけです。それに近いのかな? っていう気がすると、すごく親近感がわいてきちゃって(笑)。
あの場面でも、指使いのアップなんか、描くときは実際に演奏している映像をコマ送りで見ながら、コツコツやるしかありません。それが、ほんの1秒くらいにバーッとモンタージュされていたりすると、ああ、スタッフはこんなにいっぱいがんばってくれたんだなぁ、と地味に感動してしまう。そういう、限られた時間のなかにありったけの想いをこめる想いというか、情熱を賭けることで、その時間は永遠になるんじゃないかなって思います。青春のたったひととき、その12分間のためにがんばれるっていうのは、素晴らしいじゃないですか。

松田
おっしゃるとおり、人生には、実は何百回もやってきたことを1回こっきりでチャレンジしなければいけない瞬間というのが、やはりあると思います。僕自身、あの最後の場面を見ていて、自分の書いた「三日月の舞」の演奏に、緊張しましたから(笑)。

外囿
あれはステージライトの表現だと思いますが、空気そのもの、空間が神々しい感じでしたよね。

石原
まぁ、あれは演出で、そのほうが綺麗に見えるっていうのもありましたから。

外囿
ただ、コンクールを経験した生徒さんたちに聞くと、舞台で演奏を始めたとたん、それまでとは時間の流れがまったく違うというか、自分たちがどこか違う次元――神々しい感じになった気がすると、よく言うんですね。そういう感じが、あの場面からはすごく伝わってきました。

石原
確かにそういうことはありますね。あの、光り輝くステージっていうのは、たとえば野球場とかサッカーのフィールドと同じ、神聖な場所だからでしょうか。

外囿
神聖で、かつ残酷な面もある場所だと思います。実際、成功することを祈っていても、失敗することだってあるわけで……ここ一発! っていうソロでしくじって泣き崩れている子とか、コンクールの会場ではほんとによく見かける光景なんですよ。

石原
どんなことでもそうですが、自分の技術を極めていくと、ただ楽しくやっているだけじゃなく、どうしてもそういう高みをめざしたくなると思うんですよ。そこには、必然的に自分との戦い、他者との勝負という面が出てこざるをえない。残酷な面もありますが、そこには何ものにも代えがたい、生きていくうえの意義があると思います。

――そして、この10月からはいよいよ待望の2期がスタート。北宇治の部員たちも関西大会へ向けて、さらに上をめざしていく。そのあたりが物語の軸になってくるんでしょうか?

石原
もちろん、その部分は大きな流れとしてあります。ただ、2期について言うと、ストーリーが音楽面だけでなく、さらにキャラクターのプライベートな悩みや内面をクローズアップする部分が増えると思います。それとともに新たに、重要なキャラクターがふたりほど加わるなど、物語に重層的な広がりを感じていただけるのではないでしょうか。
音楽面についても、1期より深い部分が問題になると言うか――新しくコーチしてくれる先生が出てくるんですが、その先生が「君たちは、技術力は他の学校とも渡り合えるくらいあるんだけど、圧倒的に足りないのが表現力だ」という意味のことをズバッと指摘したり。キャラクターたちの内面の成長とともに、自分たちがどういう音楽を表現したいのか、そういうことがテーマになってきます。

外囿
コンクールで言うと、技術と表現っていうふたつの評価軸に分かれていて、50点ずつで採点したりするんです。実際、技術と音楽性っていうのは不可分で、技術がないとイメージしている表現ができない。一方、技術だけが向上しても、けっしていい音楽にはなってくれません。本当の完成をめざすため、この両面を追い求めるというのが、いつまでもついて回ることになるわけです。そのあたりが、音楽の奥深いところなのかもしれませんね。

石原
今、外囿さんがおっしゃった点については、たとえば新キャラクターでオーボエを吹く、ちょっとミステリアスな子がいるんですけれど、この子が気持ち次第で演奏が左右されてしまうんですね。いろいろと悩んでいて、コーチに「つまらない演奏している」って言われたり、それを乗り越えていくというのが、物語のひとつの柱になると思います。そう考えると、音楽ってどこか哲学的ですし、掘り下げていくと本当に奥深いですよね。

外囿
そうですね。人間性イコール音楽性では必ずしもないですけれど、特に若い時代には演奏者の成長が、レベルの向上につながる面は少なからずあると思います。

石原
アニメのほうも、今までの技術面をがんばって上げていくというところから、そういう部分に一歩でも二歩でも踏み込んでいきたいですね。

松田
そういう意味で、言葉やセリフからシーンを想像して、それを音にしていく、僕の仕事もより大変になってくると思っています。1期以上に自分のなかのイメージとか、作編曲面のひきだしをたくさんつくり、活用していかないといけないですね。実際、斎藤音楽プロデューサーや鶴岡音響監督からは“深い音楽”っていうテーマをいただいていまして……劇伴ではより静謐で透明な感じとか、弦の編成なども前より小さい数で表現することになると思います。

――それでは2期のスタートにあたり、それぞれのお立場からファンの皆さんにメッセージをお願いします。

石原
先ほどもお話した、登場人物のプライベートな部分がクローズアップされるので、その部分に注目していただけるとうれしいです。1期では、やる気のない下手くそな吹奏楽部がひとりの先生に出会い、より高みをめざしていくお話だったわけですが、そうすると、前には気づかなかった細かいほころびみたいなものが目立ちはじめてくるんですね。2期ではそのあたりを、きちんと描きたいと思っていますので、久美子や麗奈をはじめお気に入りのキャラクターがどのように葛藤し、どう成長していくか、楽しみにしていてください。

松田
石原監督がおっしゃるとおり、この作品では特にキャラクターが見ている皆さんと同じように成長していくという、その部分が魅力だと思います。当然、それを音楽面で表現する役割もいよいよ重要になるわけで、苦心する部分が多くても大変やりがいがある。ご覧になる皆さんには、作品を見て、そして聴いて楽しんでいただけるとありがたいですね。

外囿
僕の立場はご覧になっている皆さんと同じ「響け!ユーフォニアム」ファンということで、今から本当に楽しみなんですが、何よりもタイトルに「ユーフォニアム」と入っているのが、演奏者としてはありがたいんです。原作やアニメの人気のおかげで、どちらかというと地味だったこの楽器を一般の方たちにも知っていただき、その名前を覚えていただけた(笑)。
以前は「ユーフォニアム」ではなく「ユーフォニ “ウ”ム」と覚えている人が非常に多かったのに、最近では講習会へお邪魔したときなど、楽器名を正しく「ユーフォニアム」と書く学生がほとんどです。
で、学生たちに「このアニメ、知ってる?」とたずねると、「知ってる!」「見てる!」って……今や、吹奏楽に対する注目度は本当に高いわけですが、「響け!ユーフォニアム」がひとつの中心になって、ますます幅広い皆さんに楽しんでもらえるようになるとうれしいですね。

――本日は、ありがとうございました。
公式サイト

(C)武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会