TVアニメ『アトム ザ・ビギニング』作品裏話やキャラクター秘話を漫画家・カサハラテツローが語る。作中に登場する最先端AIにも注目

2017年春よりNHK総合テレビにて放送のTVアニメ『アトム ザ・ビギニング』公式サイトにてカサハラ テツローのインタビューが公開された。
『アトム ザ・ビギニング』の企画の始まりについてや、鉄腕アトムとの関係性などについて語っている。

漫画 カサハラテツローインタビュー

――カサハラ先生はどういう経緯で参加されたのでしょうか。

カサハラ 僕は「ヒーローズ」編集部の依頼がきっかけですね。ゆうき先生が作られた基本設定、それから一部のネームやプロット案がいくつかあり、それをもとにマンガを描いてほしいと。その段階では天馬とお茶の水の学生生活がメインでした。プロット案にも恋愛話があったりして、そういう方向性でしたね。

――A106はいなかったそうですね?
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カサハラ そうです。A106は、編集部から「『ヒーローズ』という雑誌なので、この設定のままで、ヒーローが活躍する話にしてほしい」という注文があったから登場させました(笑)。実は、こんな感じで、当初からいろいろ条件が決まっている企画だったので、最初は引き受けるかどうか迷ったところもありました。
でも、AIの世界ではディープラーニングなど、新しい動きがありましたし、さらに連載開始は2015年になる、と。2015年といえば『アトム』とも縁の深いTVアニメ『ジェッターマルス』(’77)の舞台です。これは『鉄腕アトム』をリブートするとしたら、神様が用意してくれたとしか思えないタイミングだな、と。それで、力足らずかもしれないけれど、ほかの人に描かれるぐらいなら、自分で描きたい!と決意したんです。

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――カサハラ先生は『鉄腕アトム』をどんな作品だと考えていますか?

カサハラ 子供の頃に読んだ時は素直に少年ヒーローものとして読んでいました。でも今回改めて読み直したら、「手塚先生はずっとアトムを描き続けていたんじゃないか」という気持ちになりました。たとえば『ブラックジャック』。あれは死にかけた間 黒男(はざま くろお)という男の子が、ツギハギされることで再生される物語でしょう? しかもパートナーになるピノコも、人工的に命を与えられたキャラクターです。あと映画『火の鳥2772 愛のコスモゾーン』(’80)に登場するオルガ。オルガは主人公ゴドーの育児ロボットなんですが、ゴドーの母であり同時に恋人でもある。彼女もまた人間になりたいロボットなんです。つまりオルガもまたアトムなのではないかと。こんなふうにあらゆる手塚マンガに『アトム』の要素が入っているのは、「虐げられている命なきものに、命を吹き込んでいく」ということなんだと思います。

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――天馬とお茶の水の関係についてはどう考えていますか?

カサハラ 天馬はひどい人だと思われていますよね。確かにアトムを「成長しない」とサーカスに売ったのはひどいですが、その後を見ると、ずっとアトムを見守っているんですよ。だから根っからの悪いヤツではないんだろうと思っています。一方、お茶の水は、あの姿形が、いろんな作品に受け継がれて“優しい博士”の典型みたいな印象ですよね。でも原作を読むと、お茶の水のほうがラジカルなんですよ。そもそも「ロボットは人間と同じだ」と主張していることも大胆だし、さらにはアトムにお父さんとお母さんを作っちゃう。アトムに「人間と同じなんだ」といいながら、いざという時は、アトムにヒーローとして行動することを求める。アトムが人間とロボットの間で引き裂かれるのは、お茶の水が原因じゃないかと思うんですよ。そういう意味で2人ともそれぞれ分裂しているんです。だから、どこかで重なり合いながらも、どこかで相容れないところがあって、それがふたりの人生を分けていくのかなと思います。

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――そのほかのキャラクターはどうやって生まれたのでしょうか。
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カサハラ 堤茂理也は、天馬とお茶の水のライバルというところから発想しました。それで、手塚マンガのライバルといえば誰だろうと考えた時に、『ブラックジャック』のドクターキリコだなと。
だから、ドクターキリコが若くなったイメージでデザインしています。逆に、妹の茂斗子は、『三つ目がとおる』の和登さんというオーダーがありました。でも、和登さんは「グラマーだけど制服を着た中学生」というところが一番の特徴で、大人になってしまうと、和登さんらしくは見えない。だから最終的には、和登さんから離したイメージでデザインしましたね。

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蘭については、連載第1回がせっかくカラーなんだから女性キャラクターを描いたほうがいいだろう、という意見があって登場させました(笑)。高校生、ショートカット、メガネ、低身長という記号の塊にする方向で考えてみて、「これは妹キャラだな」と思ったので、お茶の水の妹に設定したんです。それが後に、ストーリーを作る時に一番動かしやすいキャラクターになるとは予想だにしませんでした。そういう意味では、蘭は生まれるべくして生まれるキャラだったなと。今はそう思っています。

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――アニメの現場にもかなり深く関わったそうですね。

カサハラ そうですね。本読み(脚本打ち合わせ)にほとんど参加させていただいただけでなく、キャラクターとメカの設定には、すごく細かく意見を出させていただきました。制作現場からするとただ迷惑な原作者だったと思うんですけれど、メカ関係は分解図まで描いて説明しました。だからアニメはそれがどういうふうに動くのか楽しみです。原作を描いた後「こうすればもっとよかった」と思った部分もアニメに反映させてもらったりもしています。だから、原作未読の方が楽しめるのはもちろん、原作既読の方でも「あれ、このシーンこうだっけ?」なんていう具合に注視してもらえればうれしいです。

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「アトム ザ・ビギニング」は、AIにも注目

“鉄腕アトムエピソードゼロ”として、若き日のお茶の水博士と天馬博士による鉄腕アトム誕生秘話を描くアニメ「アトム ザ・ビギニング」。
物語では2人の開発した驚異的な人工知能(AI)、“ベヴストザイン”の機能とその進化が大きな見所だ。
「ロボットに心は必要か?」―――AIの来るべき未来を描くため、最先端でAIを研究する専門家の方々4人に監修に入っている。

松原仁(公立はこだて未来大学教授)
栗原聡(電気通信大学教授/人工知能先端研究センターセンター長)
山川宏(ドワンゴ ドワンゴ人工知能研究所所長)
松尾豊(東京大学特任准教授)

松原仁先生 コメント

「子供の頃にアトムのアニメを見て天馬博士やお茶の水博士に憧れてAIの研究者になった自分が、若いときの彼らを主人公にしたアニメに関わることができて感慨深いです。若い天馬やお茶の水に憧れてAIやロボットに興味を持ってくれる人が出てくれるとうれしいです」

公式サイト

(C)手塚プロダクション・ゆうきまさみ・カサハラテツロー・HERO’S/アトム ザ・ビギニング製作委員会