映画『それいけ!アンパンマン ばいきんまんとえほんのルルン』制作スタッフインタビュー。ばいきんまんが活躍するの物語はどのように生まれたのか

左から川越淳氏、米村正二氏
インタビュー

6月28日に全国公開となる映画『それいけ!アンパンマン全角アケばいきんまんとえほんのルルン』。本作は、森の妖精・ルルンがアンパンマン、ばいきんまんと力を合わせて〈絵本の世界〉を守る大冒険にでかけるという物語。ばいきんまんがメインキャラクターとして活躍するという、珍しい展開が話題の作品だ。

このあらすじが発表されると、子供だけでなく幅広い世代から注目を集めた。「ばいきんまん」が“X”でトレンド入りしたことを覚えている人もいるだろう。

そこで今回、本作の監督・川越淳氏と脚本・米村正二氏にインタビューを実施した。両名ともこれまでの映画『アンパンマン』シリーズに携わってきたが、最新作にはどんな思いを込めたのか、そして大きな反響をどのように受け止めているのか伺った。

ありそうでなかった「ばいきんまんが大活躍」の切り口

――本日はよろしくお願いします。お二人は以前からたびたび劇場版『それいけ!アンパンマン』を手がけていますが、今までと今作との違いはありましたか?

米村氏:川越さんと最初に映画を作ったのは、映画『それいけ!アンパンマン りんごぼうやとみんなの願い』のときでしたよね。当時と比べると、やなせさんがまだご存命だったんですよ。

川越氏:プロットを見てもらい、やなせさんのご意見を反映させながら完成させましたね。

――やはり、やなせさんがいるといないとでは作り方も変わってくる?

米村氏:そうですね、やっぱり先生のご意見って影響力が大きいから。

川越氏:亡くなってからも映画は作り続けていますが、やっぱり暗中模索で、「どんなお話にしようか」と悩み続けています。

米村氏:川越監督やプロデューサー陣でアイディアを出しながら進めていく感じです。それでもなかなか決まらなくて、自分自身も辛くなってきたところでフワッと浮かんだのが、「ばいきんまんが誰かを励ます」というプロットだったのです。
もちろん最初は現在のものとは違った箇所も多かったですけど、「ばいきんまんがゲストキャラを励ます」という部分だけは変わらず残り続けて、ストーリー作りが進んでいきました。

――ばいきんまんをメインキャラクターに据えるのは昔から温めていたわけではなかったのですね。

川越氏:不思議だけど、なぜか今までやってこなかった切り口なんですよね。

米村氏:「今回は俺様が主役だぞ」なんてセリフ、いかにも言いそうですけどね(笑)。

――あらためて、ばいきんまんを描くにあたってどんなところに気を使いましたか?

米村氏:ばいきんまんがもともと持っているキャラクターだけど、見ている子供たちが意外と気づかないところで、かなりの努力家なんですよね。何回も失敗を繰り返しているんだけど地道に努力を重ねて、メカを作ってまたアンパンマンに挑んでる。それでも負けてしまうけど、めげずにまた頑張るところに焦点を当てたいと考えました。

川越氏:そんなばいきんまんの人物像がゲストキャラとぶつけ合うといいドラマができるのではと。ここでばいきんまんの新しい一面を見たら、テレビシリーズの見方もまた変わってきそうですよね。

米村氏:そうかもしれない。時々、テレビスペシャルの回だと、アンパンマンとばいきんまんが意外な形で力を合わせることもありましたけど。

――そんなばいきんまんが活躍する中で、アンパンマンたちはどのように描こうと考えたのでしょう。

米村氏:やっぱりアンパンマンは、ここぞの場面で活躍するは想定していましたし、「ばいきんまんが活躍しますけどちゃんとアンパンマンが立つお話にしますので」という話をした覚えがあります。

――ばいきんまんの前に立ちはだかるすいとるゾウについてはいかがでしたか。ばいきんまんとすいとるゾウの戦いは、ある意味では悪対悪という面白い構図ですよね。

川越氏:確かに、最初はばいきんまんもすいとるゾウがこの世界からいなくなったら、「この世界は俺のものだ」といつもの野望を抱くし、そこは悪役っぽさが残っていますよね。でも、戦っているうちにそれを忘れちゃって、最後は爽やかに帰っていってしまう。当初の目的はどうしたの、とツッコミを入れられるのもばいきんまんの良さだと思います。
米村氏:自分で地道にメカを作り上げる器用な面も描きたいと思っていました。今回でいうと鉄を溶かして道具を作り、それでウッドだだんだんを作るんです。これは川越さんがDIYが趣味ということで、存分に描いてもらいました。

川越氏:僕、DIY好きなんですよ(笑)。それに、すべてを自分で作り上げる姿は、めげない気持ちを表現するのに適していると思ったんです。

<見出し>驚きだったSNSでの盛り上がり、2人が見てほしいものとは

――今回の映画はストーリーが公開されたタイミングで、SNSで盛り上がりを見せたのも印象的でした。

米村氏:嬉しい反応だったと同時に驚きましたね(笑)。僕が担当している別作品のプロデューサーもバズっている情報をどこからか手に入れたみたいで、「今年のアンパンマンは見に行かなきゃ」と言われました(笑)。僕自身はSNSでの盛り上がりを実際に見たわけではないですけど、注目していただけるのは嬉しいですね。

――特にあらすじの部分、ばいきんまんの「アンパンマンを呼んでこい」という台詞がかなり印象的だったみたいですね。

川越氏:私が驚いたのはバズったことより、「あらすじでここまで書いちゃうんだ」という(笑)。
このセリフはばいきんまんとアンパンマンが力を合わせる格好良さもありつつ、ゲストキャラクターとして登場するルルンとばいきんまんの関係性が深まる中で、「ルルンだけでも助けたい」という切実な思いが詰まっているんです。

――ばいきんまんの活躍は、ゲストキャラクターのルルンあってのものだと思います。このルルンに関しては、どのように描こうと考えたのですか?

米村氏:ばいきんまんが失敗してもめげない人なので、その反対側というか、なにもできない、するのが怖いキャラクターにしようと考えました。
ちょうど今、僕自身が3歳の子供を育児中でして、脚本を描いたころはまだ2歳で、ちょうどイヤイヤ期だったんです。そんな子供とルルンを重ねた部分もあります。

――では、SNSでの盛り上がりを受けて初めて見に行く人に向けて、まずはどんなところに注目してほしいですか?

米村氏:劇中のアンパンマンのセリフの節々に、「いつも僕がそばにいるよ」というメッセージを込めているので、そこはぜひ感じ取ってほしいですね。

――シリーズファンの子供や、親の世代に注目してほしいポイントは?

米村氏:逆境でも諦めないばいきんまんの姿には、気の弱い子供でも「こういうのもあるんだな」と思ってくれると思うんです。それは今回の新しさでもあり、注目してほしいです。アンパンマンは基本的に負けることがあまりなくて、その一方でばいきんまんはほとんど負けているじゃないですか。人間だって勝つばかりでなく、負けることだってたくさんあるんです。ひょっとしたらばいきんまんのほうが、見る人の共感を呼べるのかもしれません。

――最後に、以前から『アンパンマン』に携わっていますが、変わってくるものもある中で変わらないっていう「アンパンマンらしさ」はどこにあると考えていますか?

米村氏:変わらないというと、アンパンマンがお腹の空いてる人に顔をあげるシーンは、TVシリーズだけでなく映画でも欠かさず入れているんです。これはやなせさんが描いたアンパンマンの原点だと思うし、絶対に外さないよう意識しています。

©やなせたかし/アンパンマン製作委員会2024